香りの観察日記

一般人が個人的な香りの感想を記録していくためのブログです。

Dior / DUNE

気温25℃/湿度66%

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香水好きにとって、フレグランスのディスコンほど悲しいものは無い。特に名香と呼ばれる香水が廃盤ともなると愛用者の中で大騒ぎになることも多々あるだろう。とはいえありがたい事に、ネットショッピングが普及している現在ならまだ手に入れることが可能な場合も少なくないのも事実だ。(まがい物が混じりこんでいる危険性や価格高騰などの欠点には目を瞑るしかないが)

DiorのDUNE。1991年に発売され猛烈な人気を誇ったが、現在では廃盤になってしまった。トップノートだけで判断してしまえば確かにそういう運びになってしまったのも納得してしまう部分が無いとも言えない。

マンダリンやライム、ツンとしたアルデヒド。その奥にローズウッドがどっしり構えている。うーん、バブリーというか、おばちゃんの匂い。しかもこれがEDP並の強さでそれなりの時間香る。慣れてくれば気にならないのだが、このファーストインプレッションのせいで「あークサ!無理!」となってしまう人は多いだろう。

しかしもう少し待ってみて欲しい。きちんと肌に馴染むまで。本当の香りが完成するまで。トップからミドルに移り変わるという時、おしろいのような粉っぽさが現れ、それを皮切りにいよいよDUNEは本領を発揮するのだ。

サンダルウッドをバックに、ジャスミン、イランイラン、ローズ、リリーなどの花々が咲き乱れ、一気にエキゾチックな香りに変化していく。しかし決してギラギラした雰囲気ではなく、凛として品のある知的なウッディフローラルだ。

オークモスやパチョリの鋭さ、そしてローズウッドとサンダルウッドによる木調のほのかな甘み、アンバーのまろやかさが花々の香りを一層センシュアルにまとめあげた時、肌の上でDUNEは完成する。

ちなみにこの香水の名を和訳すると「砂丘」だ。公式によるとフランスの港町グランヴィルから着想を得た香りというのだから、海辺の砂丘をイメージしたのかもしれない。しかし、個人的にはもっと熱帯の、乾いた砂漠の夜を連想するようなドラマティックな香りだ。

今日はこのまま寝香水としてDUNEと旅に出ようと思う。異国のどこまでも続く砂漠の道を、満天の星空を眺めながら。

 


 

 

GIVENCHY / π

気温27℃/湿度65%

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先の記事に記したように、纏う環境で印象をガラリと変える香水は非常に多い。その中でも突出して面白い表情の変え方をする香りがあった。

GIVENCHYのπである。

いつだったか、オリエンタル香にハマっていた冬場に購入したきり長らく出番を待ち続けたベンチの守護神だ。(ごめんよ…)

さて、その香りはと言うと、トップはマンダリンオレンジにバジルやローズマリータラゴンがスパイシーに弾ける。が、ものの数秒でバニラとトンガビーンの濁流が押し寄せ、強烈な甘さに支配される。

冬場に纏った時にはそこから一層こってり感が強まり、激甘官能バニラになるだけだった。公式ではウッディオリエンタルとのことだが、何コレただの超絶バニラじゃん!と、当時は特別な魅力を感じることが出来ずにいたのだった。

しかしつい最近、寝香水としてたまにはシンプルなグルマンも良いかなとなんとなく手を伸ばしてみた。さあ来い!とばかりに特濃バニラを待ち構えていたのだが、πはその期待をいい意味で裏切ってきた。

トップは冬場に香った時と同じようにフレッシュでスパイシー。その後すぐバニラが現れるのだが、その傍らでウッドやハーブ、スパイスがきちんと香っており、不思議な奥行き感が出ている。甘いのに清涼感すら感じる、ハーバルでひんやりとしたバニラだ。動く度にふわりとバジルの青みやアニスの薬草っぽさが見え隠れするのがとても面白い。

この心地良い不安定さはおよそ一時間ほど楽しめる。ラストは杏仁豆腐のような柔らかくクリーミーな甘さに変わり、なるほど…確かにウッディオリエンタル…かもしれない。いや、むしろジャンル分けするのも難しいくらい、素敵な気まぐれさがある。夜に纏って朝まで香っているのだから持続性も抜群だろう。

なんというか、ろくに言葉を交わしたことも無いクラスメートと初めて会話し、君ってこんなに魅力的だったんだ!と今までの時間を惜しむような気分になった。

そんな香りを、筆者は家でのリラックスタイムや寝香水として最近頻繁に使用している。

幾何学的なボトルと黄金色のジュースは美しく、インテリアなどの邪魔をしない所もまたいい。未だに「πはこういうノートの香水だ」としっかり掴めない、だからこそ何度も手が伸びてしまう。

俗に秋冬物だと言われる香水も、暑い季節になって改めて香りを確かめると新しい発見があるものだ。それをはっきり教えてくれたベンチの守護神は、意外なタイミングでレギュラー入りを果たした。

 


 

 

HERMES / ナイルの庭

気温26℃/湿度66%

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早朝4時前、付けっぱなしのテレビの音で起きる。頭が冴えない。目覚めの一服をしつつ、久しぶりにとあるボトルに手が伸びた。

エルメスのナイルの庭だ。

香りの霧が生ぬるい空気をかき分けて新鮮なシトラスが肌に着地する。やや苦味のあるグレープフルーツとその皮を思わせる若干の青臭さ。それはシャープすぎず柔らかすぎないまま、よりクリアになってくる。

私は自他ともに認めるシトラスキラー肌だ。しかしこの香りはそんな肌の上ですらジューシーさや瑞々しさを失わない。むしろどんどん視界が開けていくような感覚さえある。そしてその先にあるのは、とても静かで、穏やかで、まだ若いフルーツが実った木々に囲まれた水辺だ。その水面には今まさに花弁を開いた睡蓮が朝露を湛えている。

ナイル川が流れるエジプトでは、蓮の花は古来から神聖視されており、夜明けと共に咲き、日が沈むと花びらを閉じることから太陽の象徴とも言われた。特に純白の蓮の花は「ナイルの花嫁」と呼ばれ愛されているという。

ミドルノートはまさに花嫁のヴェールのように繊細なパウダリーさを伴う睡蓮と、陽光に照らされキラキラと光る水、そしてそれらを撫でるように吹くグリーンな風の香りだ。

ここからのドライダウンは比較的シンプルで、少しずつムスキーさを増しながら花弁を閉じていく。

肌に溶けるように薄れていくので、他の香りを付け直す際にも邪魔をしない。どこまでも奥ゆかしいのだ。

気だるい朝、不思議とこの香りを纏いたくなる。爽やかで明るい香りではあるが、決して押し付けがましくないところがいい。どんな日でも違和感なく共に過ごせる、不思議な包容力のある香りだ。

 


 

ブログの趣旨

不思議なことに、同じ香水でも気温や湿度によって全く異なる表情を見せることが多々ある。

ムエット上での香り立ちと肌に乗せた時との印象が異なるように至極当たり前のことではあるけれど。

買った時はいい香りだったのにいざ自宅で付けてみたらなんか違う!という現象も上記のような環境や状況の違いというのが主な原因だろう。

フレグランスド素人の筆者が今よりもっとド素人だった頃、それが原因で手放してしまった香水が多々あった。

そして今になってその軽率な別れを猛烈に後悔している。

あの時もうワンシーズン待っていたら…纏う日の天気を考慮していれば…もしかしたら今はもう手元に無い香水が特別お気に入りになっていたかもしれなかったのにと。

例えば、映画や小説、音楽などのアートは、受け取り手の年齢だとか心模様次第で作品に対しての感じ方は大きく変わるものだ。おそらくフレグランスも同じようにそうだ。

このブログでは、香りの初心者が手元の香水に対して観察日記様に個人の感想を記録していこうと思う。

二度と血迷って大切な香りを手放さないように。

それらの書き散らしがいつか誰かの目に触れて、参考になれば尚更幸いだ。