HERMES / ナイルの庭
気温26℃/湿度66%
早朝4時前、付けっぱなしのテレビの音で起きる。頭が冴えない。目覚めの一服をしつつ、久しぶりにとあるボトルに手が伸びた。
エルメスのナイルの庭だ。
香りの霧が生ぬるい空気をかき分けて新鮮なシトラスが肌に着地する。やや苦味のあるグレープフルーツとその皮を思わせる若干の青臭さ。それはシャープすぎず柔らかすぎないまま、よりクリアになってくる。
私は自他ともに認めるシトラスキラー肌だ。しかしこの香りはそんな肌の上ですらジューシーさや瑞々しさを失わない。むしろどんどん視界が開けていくような感覚さえある。そしてその先にあるのは、とても静かで、穏やかで、まだ若いフルーツが実った木々に囲まれた水辺だ。その水面には今まさに花弁を開いた睡蓮が朝露を湛えている。
ナイル川が流れるエジプトでは、蓮の花は古来から神聖視されており、夜明けと共に咲き、日が沈むと花びらを閉じることから太陽の象徴とも言われた。特に純白の蓮の花は「ナイルの花嫁」と呼ばれ愛されているという。
ミドルノートはまさに花嫁のヴェールのように繊細なパウダリーさを伴う睡蓮と、陽光に照らされキラキラと光る水、そしてそれらを撫でるように吹くグリーンな風の香りだ。
ここからのドライダウンは比較的シンプルで、少しずつムスキーさを増しながら花弁を閉じていく。
肌に溶けるように薄れていくので、他の香りを付け直す際にも邪魔をしない。どこまでも奥ゆかしいのだ。
気だるい朝、不思議とこの香りを纏いたくなる。爽やかで明るい香りではあるが、決して押し付けがましくないところがいい。どんな日でも違和感なく共に過ごせる、不思議な包容力のある香りだ。
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